アスレティック・ビルバオは4-5-1、対するバルセロナは4-3-3の布陣となっている。サン・マメスにおける両チームの対戦成績は、ビルバオの41勝17分け22敗。ただし、最近10シーズンに限ればビルバオの1勝6分け3敗となっている。
[Goal.com] 6日に行われたリーガエスパニョーラ第12節、アスレチック・ビルバオ対バルセロナの一戦は、2−2の引き分けに終わっている。
敵地サン・マメスを訪れたバルセロナは、降りしきる雨の中、ビルバオの厳しいプレスに苦しめられる。水びだしのピッチで、いつもの流ちょうなボール回しは鳴りを潜め、肉弾戦を仕掛けるビルバオ守備陣に決定機を作らせてもらえない。すると19分には、ビルバオに先制を許してしまう。
中盤でボールを奪ったビルバオは、左サイドに走ったスサエタに素早くつなぐ。スサエタはA・エレーラにパスを送り、これをA・エレーラがエリア外からゴール右隅に決めた。このA・エレーラの得点により、GKビクトル・バルデスの続いていた無失点記録が途切れている。
バルサは失点後も、ビルバオの積極的な守備と不良なピッチに苦戦したが、25分に同点に追い付く。左サイド、アビダルの上げたクロスが、中央のセスクにピンポイントで届き、セスクのヘディングシュートが鮮やかに決まった。バルサは前半のうちにスコアをタイに戻して後半へ向かう。
後半に入ると、ピッチ状態はますます悪化する。ボールが止まってしまう場面も多々見られる展開で、両者ともに決定的なチャンスを生み出せない。バルサは63分にシャビを下げてアレクシスを、71分にはアドリアーノに代えてビジャを投入して攻撃を活性化しようと試みた。だが、スコアをリードしたのは、またしてもビルバオだった。
78分、ビルバオ陣地に押し込んでいたバルサは、一旦失ったボールをマスチェラーノが中盤で奪い返すも、GKバルデスに送った長いバックパスがそれてビルバオにCKを与えてしまう。このCKで中央に送られたボールを、アビダルがクリアしようと左足を振り抜くと、それがF・ジョレンテに当たってそのままゴールインする不運な形で失点した。
失点直後の80分、バルサはピケに代えてチアゴをピッチに送り込んで最後の攻撃に出る。イニエスタ、ビジャが立て続けに決定機を迎えるも、GKイライソスの好守に阻まれ得点には至らない。誰もが敗北を覚悟した瞬間、バルサの10番がチームを救った。
後半ロスタイム、中盤でボールを持ったメッシは、エリア内のイニエスタにスルーパスを出す。このパスをイニエスタが1タッチで前方に送ったものの、味方の反応がなく中途半端な位置にボールが転がる。するとこれが功を奏したか、GKイライソスとビルバオDFの混乱を誘い、ボールは最初にパスを出し走り込んでいたメッシの足元へ。メッシは迷わず左足でシュートを突き刺し、土壇場での同点弾を叩き込んでみせた。
バルサは敵地サン・マメスを攻略しきれずも、難しいピッチコンディションと勇敢なビルバオイレブンを前に、辛くも勝ち点1を獲得している。
ビルバオはマンマークをベースとする守備戦術を採用。前線から選手個々に厳しいマークにつくことで、バルセロナは余裕をもってプレーが出来ていなかった。ゾーンとは違い人をマークするこの守り方によって、
@パスのインターセプトA簡単に前を向かせない
豪雨によりボールが止まってしまうほどの悪質なピッチ状態という条件はあったにせよ、ビルバオの守備はバルサ相手に機能しており、上記の二点を遂行できていた。また、完全なマンツーマンではなく、受け渡せるところは柔軟に対応していた点も非常に組織化されていると感じた。
そのため、普段のバルサがみせる圧倒的なポゼッションをビルバオが阻止(それでも90分を通してバルセロナは59%を保持)。これにより、守備の時間が多くなるバルセロナ。すると、普段は全く気にならないメッシのディフェンスが目につくようになる。メッシは守備が免除されているぶん、対面するビルバオの左SBアウルテネチェがオーバーラップした時にマークについていくことがないため、フリーになる場面がある。その際には右CHのシャビか右SBのアウベスがケアをしていた。そうすると、他の選手たちも右寄りにポジションをずらし逆サイド(バルセロナの左サイド)が大きく空くというシーンが見られた。
ただし、ビルバオのこのディフェンスは、選手のファウル・トラブルとスタミナが心配の種。2010年の南アW杯でも、ビエルサ率いるチリ代表がスペインに対して善戦したものの、激しい守備が仇となり前半37分に退場者を出してしまい1-2で敗れたのは記憶に新しい。
ビエルサが試合の前に「バルセロナにボールを持たせない。自由にさせない」とコメントしていた一つの目標はこれで達成されたわけだが、サッカーは得点を奪わなければ勝つことができない。
ビルバオの選手たちは攻撃への意識が高く、チャンスがあれば積極的に前線へ飛び出していき、まさにビエルサのサッカーを体現していた。オフェンスの起点となったのは前述のアウルテネチェによる質の高いクロスと、ドリブルの技術に優れボールをキープできる右SHのムニアイン(U-21スペイン代表)の突破、ジョレンテの高さだった。
前半5分、メッシへの縦パスをアウルテネチェがインターセプト。ジョレンテにくさびのパスを入れてから、オーバーラップしてきたアウルテネチェが左サイドでボールを受けて中央へクロスを試みる。このボールはアウベスがハンド気味にブロックしたことで味方に合うことはなかったが、この時、ゴール前にはジョレンテ、ムニアイン、デ・マルコス、アンデルの4枚が走り込んでいて攻撃に厚みをもたらしていた。
また、9分には攻め残っていたアウルテネチェがフリーの状態でアーリークロスを入れる。このボールはジョレンテにピンポイントで合わせて好機を演出。この時点ですでに3本のクロスを配給していた。
36分には中盤でカットするや、アウルテネチェがすぐさま前線へ駆け上がる。これに対してマスチェラーノとピケは外に釣り出され、中央がアビダル1枚と薄い状態となる。そこへ右サイドから斜めに走り込んできたムニアインに絶妙なスルーパスが出されてGKと一対一になるも、ジャストミートできずに得点には至らなかった。
リーガ屈指の高さを誇るジョレンテに対してピケはほとんど競り負けていて、空中戦においてはビルバオに分がある。それに加えて、アウベスは高い位置にポジションをとるため、バルセロナの右サイドのスペースは大きな狙いどころとなる(マスチェラーノがワイドに開くことで対応はしていたが…)。そのため、アウルテネチェのクロスはバルセロナにとってかなり厄介なプレーとなっていた。
つまり、メッシのサイド起用はアウルテネチェのオーバーラップを容易に許していることでバルサの失点する確率を高めており、この試合においては適切なスタート・ポジションではなかったと言える。とはいえ、エースのメッシを外すことはケガ以外には考えにくいわけで、選手の並びに修正の余地があったのではと考える。
グアルディオラはこの試合で初めてブスケツ、シャビ、イニエスタ、セスクのスペイン代表の4人全員を中盤に揃えてきた(4-3-3というシステムだが、3トップの中央はMFともいえる)。イニエスタ以外はサイドのポジションにそぐわない選手たちなので、必然的にメッシがサイドに回ることとなったと言えるかもしれない。対戦するチームによって変わるものだが、この試合においては“守備に戻らないメッシ”を中央に置き、イニエスタを左WG(アドリアーノを右に)、セスクをCHで起用した方が安定したのかもしれない。
ただ、61分にサンチェスが投入されてメッシが真ん中にポジションを移してからは、右サイドの守備は改善されていた。
話はずれてしまうが、このカルテットとバルセロナのエースを共存させるには、3-4-3で見せる“ダブル・トップ下”にセスクとメッシを並べる布陣が一番バランスが良いのだと感じた。しかし、連戦によるビジャの疲労やサンチェス、ペドロ、アフェライの故障によってサイドプレーヤーが極端に少ないチーム状況を考慮したうえでの采配だったかもしれない。
それにしても、今季のグアルディオラは選手の入れ替えを大胆に行なっている印象だ。休ませる時はしっかりと休息を与え、トップチームの選手たちを上手くターンオーバーさせている。12月に控えるクラブW杯との兼ね合いもしっかりと視野に入れているのだろう。引き分けはしたが、進化を模索し続けるペップの指揮はやはり面白かった。


